水いぼ

「水いぼ」の正式な病名は「伝染性軟属腫」で、ポックス ウイルスの一種による感染症です。小さなお子様が罹患しやすく、集団生活や水遊び・タオルの共有・浴場などで肌と肌がこすれあうことで感染することが示唆されています。
14 〜 50 日の潜伏期間を経て、免疫力が発達していない子供の体幹や四肢・デリケートゾーンや下腹部・太ももの内側などを中心に出現します。

直径2 〜 10 mm の柔らかい少し光沢のあるブツブツした発疹ができ、痛みやかゆみは通常はありませんが、掻いて炎症を起こすとかゆくなって、その周囲に皮膚炎を起こすことがあります。

数か所だけという少ないケースもあれば、乾燥していたり、引っかいたりすることで数えきれないほど多数できてから受診されるケースもあります。水いぼのできるお子様では肌のバリア機能が低下していおり、皮膚炎に処方しているステロイドを塗っていることで水いぼが広がってしまうこともあります。

水いぼとして明らかな部分以外にも目に見えないところにウイルスが潜伏していたりしますので、湿疹と水いぼを合併しているようなお子様では特に治りにくく、治療が遷延化してしまうこともあります。

一般的に、健康な子どもでは、6ヵ月~3年で自然治癒するとされています。
個人差が大きくその患児がいつ治るかを予測することは困難です。それでも、免疫ができると罹患しにくくなってきます。中学生くらいになると水いぼに罹患しているお子様はあまりお見かけしませんが、稀に、アトピー性皮膚炎でバリア機能が低下している大人や妊婦さん、免疫力の低下している大人でも感染することはあります。

水いぼのお子様はプールに入ってよいのか?プールの水でうつるのか?

これに関しては厚生労働省が日本皮膚科学会・日本小児皮膚科学会の統一見解をうけて、結論として「プールの水では感染しないので、プールに入っても構わない。しかしタオル、浮輪、ビート板等を介して感染する場合もある。」としています。(保育所による感染対策ガイドライン 2018年による)

肌と肌をすり合わせるようなことがなければ水いぼがうつる可能性が低くなるため、「ラッシュガードなど水いぼがある部分を覆っていただければプールに入っても問題ない」とするところが多いようです。

あとは施設の基準にもよりますので、各施設に問い合わせていただくとよいでしょう。

水いぼの治療

① トラコーマ鑷子(せっし)による摘出

ウイルスの塊をトラコーマ鑷子(せっし)とよばれる特殊な鑷子でつまみ取ります。

ただし、小さい水いぼの場合摘出しきれない可能性があることや痛みを伴う治療であることがデメリットです。
処置時に目に見えるものを取っていきますが、まだ目に見えない潜伏期にあるものは対応できないので、取っても取っても次々に出てきてしまい、何度も処置を行わないといけないことが往々にしてあります。

麻酔のテープを事前に貼ってから摘出する方法もあり、痛みを緩和させながら摘出することができます。非常に稀ですが、この麻酔剤のテープによるアナフィラキシーショックなどの全身性のアレルギー反応を起こす可能性があります。麻酔のテープで何度も処置を行ううちにアレルギーをおこしてしまう、というリスクもあります。麻酔のテープの効きめがでるのに時間がかかること、1回にとる個数が限られることなどがデメリットです。

② 冷凍療法

ウイルスを冷凍することで除去する方法です。直接摘出するよりも当然効果は低いですが、ウイルスに直接ダメージを与えるので、内服療法や経過観察よりも効果は高いといえます。
ただし、痛みを伴いますし多くの水いぼに冷凍処置することは子供も嫌がるので困難であること、液体窒素では色素沈着や炎症後の瘢痕が残ることもありうるのであまりお勧めの治療とはいえません。

③ 水イボ専用の塗り薬 M-BF Cream® (保険適応外)

当院では「水いぼに対して痛みを伴う治療をしたくない」という方のために、「M-BF Cream®」を導入しています。M-BF Cream®は強力な抗菌作用がある銀イオンと保湿成分および抗炎症作用をもつサクランが配合されているクリームです。
銀は感染予防作用があり、かつては水いぼに硝酸銀を付けて治すという治療が行われていたこともありました。

M-BF Cream®を1日2回、朝と入浴後に毎日塗ると、水いぼのところだけ赤くなってきて、その後水いぼがなくなっていきます。一般的には、治療開始後、平均2~3か月で水いぼが治るとされています。3か月以上かかる方でも治癒にかかる期間が短縮されるとされています。
特に大きな副作用の報告はありません。ご自宅で塗るだけの簡単な治療法ですので試されるとよいおすすめの方法です。

M-BF Cream®のご案内

④ 内服薬(ヨクイニン)

補助的ですが「ヨクイニン」の内服療法を行うこともあります。「ヨクイニン」は、ハトムギの皮を除いた種で、古くから肌トラブルに用いられてきた生薬です。 消炎作用や体の水分バランスを整える作用があると言われ、肌あれや、いぼに効果があるとされています。
実際、水いぼにも試しに補助的に処方されることもあるのですが、小さなお子様にヨクイニンを長期服用させるのはわりと大変なことが多いといった印象です。

⑤ 経過観察

文字通り、水いぼが増えてこないか様子をみる方法です。
水いぼはウイルスが原因ですが、免疫が付けば自然と治ります。そのため、単に様子を見るというのも選択肢にあげられるでしょう。しかし様子をみることで逆に増えてきて、その後で「やはり取ります」ということになりますと、摘出するのがむしろ大変になってきますので、慎重にみる必要があります。また、放置していると、水いぼの周囲のバリア機能が崩れて荒れてかゆみのある皮膚炎を引き起こしてしまうことがあります(「水いぼ反応」といわれます)。
水いぼの個数だけではなく、肌が荒れたりかゆがったりしていないかも含めて経過をみることが必要です。

個人的見解としては、個数が数か所程度のケースでは摘除が最も効率がよく、個数がかなり多いケースや過去に痛い思いをして治療を受けたことで処置自体が困難なケースでは、水いぼの外用薬で治療するのがよろしいかと思います。
もちろん、自然治癒を目指して様子を見続けるだけというのもありです。肌質や生活環境、年齢、ご両親の考え方によるので、どれが正解というものではなく、あくまでケースバイケースです。皮膚科や小児科の医師の間でも治療についての見解は分かれるところもあります。
いずれの治療スタンスでも、よく保湿をしていただき、肌のバリア機能が低下しないようにスキンケアを継続することが重要です。兄弟のいずれかが水いぼを発症してしまったら、一緒にタオルを共有しない、肌と肌が直接こすれることのないように、しばらくは一緒に入浴させない、などといった工夫もできると感染の予防になることでしょう。